「構造計算プログラムのブラックボックス化」と、よく耳にします。
「ブラックボックス」とは、そのままの意味で「黒い箱」。
「黒い箱」の中では、何が行われているのかを見ることができません、黒いですから。
構造計算プログラムは、何が行われているのかを見ることができないから「ブラックボックス」と言われているのだと思います。
そして、計算プログラムはとても便利だけれども、この「ブラックボックス」によって危険な建物を生み出す弊害が生じることを危惧して、「構造計算プログラムのブラックボックス化」という言葉が使われているだと思います。
計算プログラムは、計算をしてくれるプログラムです。(当たり前ですが、、)
所定の数値を入力すると、プログラムが計算をし、結果をはじき出します。
プログラムは正直で、NGであればNGの結果、OKであればOKの結果をはじき出します。
手計算は、計算を自分でします。(当たり前ですが、、)
計算結果は、NGであればNGの結果が、OKであればOKの結果が出ます。
こういう部分は、手計算でも計算プログラムでも一緒です。
手計算と計算プログラムの違いは、何でしょう?
計算プログラムを使うとき、プログラムを使う人は、数値を入力するだけで計算はしません。
プログラムを使う人は、計算はプログラムにやらせて、プログラムに結果を出させます。
ですが、手計算は、計算を自分で行って、結果も自分で出します。
手計算と計算プログラムの違いは、計算と結果を、自分でやるのか、それともプログラムにやらせるのかの違いでしかありません。
なぜ、プログラムにやらせるのか?
大変だからです。
膨大な計算を一人の人間が、限られた工期内でやるためには、徹夜をして仕事を終わらせるしかありません。
しかも、構造設計という仕事の性質上、ミスは許されません、人の命がかかっていますからね。
睡眠不足であろうと、体調が優れなかろうと、関係ありません。
ミスなく、工期内に、膨大な計算をやるという、ミッションをクリアしなくていけません。
それに加えて、意匠変更などが出れば、場合によっては、最初からやり直す必要があります。
どうでしょう?大変ですよね。
計算プログラムに、この大変な作業を肩代わりしてもらえば、どんなに良いでしょうか?
きっと、睡眠不足も解消し、体調も万全になり、格段にミスも減ります。
ミスなく工期内にミッションをクリアし、意匠変更などにも迅速な対応が可能。
(実際は、そんなホワイトな仕事じゃありませんが、、、とりあえず、まぁ、そこは置いてお置くとします)
誰にとっても、よきことだらけです。
本来、計算プログラムは、構造設計の仕事の「計算する」という部分を効率化させるためにあります。
でも、人間って、どんどん、楽な方へ、楽な方へと行きがちですよね?
わたしも、そうです。
計算プログラムを使っていると、「結果」にしか目が行かなくなってしまいます。
プログラムがはじき出した「結果」のみに注力して、結果を生み出した「計算」の内容には注意を払わなくなってしまいがちです。
こういう状態になってしまうのは、計算プログラムに人が左右されているからだと思います。
これがもっと酷くなると、構造設計は計算プログラムがやっていて、人はただの入力オペレーターになってしまいます。
本来は、「プログラムを使う人は、計算はプログラムにやらせて、プログラムに結果を出させる」が正解です。
ですが、「プログラムを使う人は、計算はプログラムにやってもらう、プログラムに結果を出してもらう」、その傾向が濃くなっている、それが今の現状です。
だから、いつのまにか構造設計者じゃなくなって、入力オペレーターになってしまいます。
入力オペレーターで何が悪い?
良い悪いの問題ではなく、「結果について誰が責任を持つのか」という問題です。
構造設計者は、自分の構造計算の結果に、自分で責任を持つべきです。
それが仕事ですから。
「計算プログラムでOKが出したから、計算結果はOK」では、きっとダメだと思います。
計算プログラムに何らかのバグが生じていて、本来はNGだったものがOKという結果になっていた場合、これは誰の責任になるのでしょうか?
計算プログラムを作った会社の責任になるのでしょうか?
もしそうであるのならば、なんのために構造設計者はいるのでしょうか?
自分の設計には自分で責任を持つべきです。
計算プログラムの結果がおかしいことに気づかないことは、構造設計者のミスです。
でもどうでしょう?
計算プログラムの結果がおかしいことに気づけるでしょうか?
仕事をしていて、気づくときがあります。
思った結果と違う時に、「あれ~なんでだろう」と。
そういう時は、その部分を自分で電卓をたたいて計算します。
そういう時の原因の大体は、計算プログラムに入力した数値の入力ミスだったりします。
でも、計算プログラムのバクみたいのには、気づく自信はありません。
バグには気づけませんが、計算結果がおかしいことには、きっと気づけると思います。
「構造計算プログラムのブラックボックス化」
こんな言葉を耳にするとき、確かにそうだな、とわたしは思います。
計算プログラムは、とても便利ですが、いつのまにか人を堕落させてしまいます。
構造設計者として責任を持つべきところを、計算プログラムに転嫁してしまいがちです。
わたし自身も、普段の業務で多忙になると、ついつい、計算プログラムの結果がそうなのだから、きっと、そうなんだろうな、で終わらせてしまうことがあります。
自戒の意味でも、もっと「黒い箱」の中身を知るべきと思い、改めて勉強を始めました。
構造設計の仕事に就いて20年、自分が分からない、知らないということを放置してきたことに、恥ずかしいという思いがあります。
ですが、何事も遅すぎることなどない、思い立ったが吉日です。
構造計算プログラムは、ちっともブラックボックスじゃないよと言えるように、精進しようと思います。
願わくば、意匠屋さんにも分かって欲しいなと思います。
構造屋は、計算プログラムの入力オペレーターじゃないよ。
構造屋は、自分の仕事にプライドをもって、責任を果たそうと努力してますよ。
分かって頂ければ、
「計算プログラムで計算するだけだから、そんなに時間かからないでしょ?」
などど、心無い言葉で、構造さんがいじけてしまう。
なんてことが想像できるんじゃないんでしょうか?
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