破壊を考えてるから、食い違う

 ある大工さんが言いました。

「へ~でもさ、ふつう、壊れるって考えないよ~。建てるのが自分の仕事だからな~」

飲み会の席で、大工さんが構造設計って何やるの?と聞くので、わたしなりの設計の流れを説明した時の反応でした。

大工さんにとっては、家を設計するときに、ビルドじゃなくてスクラップを考えているという、わたしの考え方は新鮮に感じたようです。



どういう考え方なのかというと、

必ず建物は壊れる。が、設計の前提。

設計の中で、いったん建物を組み上げて、そして、その建物を一回、頭のなかで壊してみる。

どうすればこの建物を壊すことができるのか?を試行錯誤する。

どこかしらの部材なり接合部が破壊する、そして建物が壊れる。

だったら、その弱点となる破壊する部分を、あらかじめ補強してあげておく。

そうすれば、壊れにくい建物になる。

新築で建てるのに、変な話ですが、一度設計を行ってから、耐震診断をして補強をしているようなものです。




もしかしたら、このようなわたしの構造設計の考え方は、イレギュラーかもしれません。

もともと一番最初に入ったのが、耐震診断・補強をメインにする会社だったので、こんな風な思考が染み込んでいるのかもしれません。

一般的な構造屋さんが、構造設計をするときに、どのように考えて設計しているかは、正直わかりません。

そういえば、構造屋同士で、どんな風に考えて設計しているのか、なんて話してみたことなかったかも知れません。

構造屋は何を考えて、設計をしているのか?

について一度、いろんな構造屋さんに聞いてみると、いろんな考えた方があったりして面白いかも。



ともあれ、実際に作り手である大工さんにとっては、大工さんが言ったとおり

「建てるのが仕事」

が普通に作り手にとっての正解だと思います。

誰も、壊れるかもなんて思いながら、ものを作ったりしませんよね。

意匠屋さんだって、お客さんが快適に住まうために設計をしてるでしょうしね。

大工さんだって、そうでしょう。

誰かが住まうための箱を建てるのが、住宅建築。というのが正論ですよね。




でも、わたしにとっては、そうじゃなくて、壊れるを考えるのが、思考として染み込んでしまって、いつのまにか正論を忘れてました。

だから、

大工さんの「建てるのが自分の仕事」

の言葉に、

「あっ!そうだよね、普通はそういうもんだよね。」

と、当たり前のことに、改めて気づかされました。失念しておりました。




意匠屋さんと設計の段階で協議するときに、なにかいまいち、通じないな~と不満に思うことが多々あります。

これはきっと、設計に対する元々の思想が違うというのも原因のひとつじゃないんでしょうか?

作る・建てる、っていうのは創造的なもので、どちらかというと前向きですよね。

わたしの壊れるのを考えるという考え方は、違う方向を向いてます、後ろ向きです。

でも、壊れる破壊点を補強しようというのですから、結局は前に進んでいるわけなんですけどね。。。

まぁ、意匠屋さんにとっては、「ここが壊れるので、ここを強くしましょう」なんて言われると嫌なのかもしれません。

だって、自分が創造したものに、最初から欠陥があるなんて思いたくないでしょうから。

だから、意匠屋さんにとって、構造屋さんは嫌な事いう奴にしか思えなくても仕方ないです。




意匠屋さんにとっては、建物は「建てる物」で、壊れるってことは想定外。

構造屋さんにとっては、建物は「壊れる物」で、それを土台に考える。


意匠屋さんから見れば、壊れるなんて後ろ向きな意見は創造する仕事にとっては邪魔でしかない。だから構造屋さんの態度は、自分の仕事を邪魔していると感じられる。

構造屋さんから見れば、前しか向いてない意匠屋さんの態度は軽率だと感じられる。



わたしにとっては、破壊を考えるのが構造の仕事の中には必ず必要なんだという思いがあるのですが、そこを出発点に意匠屋さんと会話すると、どうにもこうにも食い違ってしまう。


破壊を考えなきゃいけないけど、破壊を考えているからこそ、食い違ってしまう。



大工さんの一言で、気づかされました。

建築に関わる人たちの想いは、それぞれですね。

きっと、それぞれが正しいんだと思います。

いろんな意見をすり合わせ、結果、いい建物ができれば、それでいいんじゃないかと個人的には思います。

いい建物になるには、関わる人たちが、自分以外の意見にも耳を傾けるのが大切なことだし、そうできる人間関係ができていなくちゃいけないと思います。

まぁ、理想論ですが。

理想と現実、そのギャップに虚無感を感じることが日常ですが、、。

まぁ、あまり難しく考えず、気張らず、できることをがんばろっと!


それでは、また。

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