美しい図面

 美しい図面


「図面」を描いていて、納まりがよく分からない、でも時間がない。

「もう、しんどいし、時間がないし、こんな感じでいいしょっ」なんて、逃げてしまいそうになることが、よくあります。

でも、「あの時」の事が、頭をよぎって、逃げてはダメだ、頑張ろうという気持ちにさせてくれます。


あの時」の事とは、むかし、耐震診断の業務をしていた時のことです。

耐震診断の対象になるのは、旧耐震の建築物になります。

旧耐震の時代は、まだCADが普及しておらず、図面と言えば、すべて手描きです。

わたしが勤めていた事務所が、耐震診断の業務をメインにしていたおかげで、たくさんの手描きの図面を見る機会に恵まれました。

その中でも、その案件の手描き図面は、印象的で、

「うっ、美しい、、、」と、唸るほどの図面でした。


線は、一定の筆圧で引かれ、太線・中線・細線、濃淡も、きっちり描きわけられている。

文字は、きっちりと製図文字で書かれ、分かり易く見やすい位置に配置されている。

しかも、細部の納まりまで、きっちり図面に起こしてあったので、他の案件に比べて図面枚数もダントツで多かったと記憶しています。

具体的な枚数は、覚えていないなのですが、トレーシングペーパー原図なのに、厚さが1.5㎝くらいは、ありました。

図面に対する厳格さ、納まりに関する知識量、図面を書いた人の、気迫を感じます。


しかし、図面の醜さ・美しさ、図面枚数の少ない・多いで、この案件を覚えていたわけではありません。


耐震診断の業務では、現地調査で、実際の建物と図面の整合性をチェックします。

この案件をよく覚えていたのは、現地調査で、ほぼ図面と建物が整合していた事実に驚きを覚えたので、今でも記憶に残っているのです。


他の案件では、図面と建物が整合していない、不整合であることが、ほんとに多かったと覚えています。仕事に慣れていくうちに、不整合であることが、当たり前にさえ感じるようになっていました。


でも、この「美しい図面」の案件では、見事に設計図どおりに、建物が建てられていました。


耐震診断の業務をやっていくうちに、お粗末な図面ほど、図面どおりに建物が建てられことがなく、逆に設計者の気迫が感じられるほど描き込まれた図面になればなるほど、図面どおりの建物になる傾向があると、気づきました。


この傾向は、施工側に立ってみれば、しごく簡単なことだと思います。

設計者が、時間がない、納まりが分からない、など言って「逃げた」図面を描けば、その気持ちが「図面」を通して、相手に伝わる。

施工側に設計者の「逃げ」が伝わっているから、施工側は、それなりの施工をしているだけのことなのだと思います。

逆に、あの「美しい図面」の建物が、設計図どおりであったのは、施工者が、「図面」から設計者の「こうして欲しい!」という気迫を感じとっただけのことだと思います。



仕事をしていて「図面」を描く時に、納まりがよく分からない、時間がない。

そんなことは、日常茶飯事ですが、「あの時の美しい図面」の事が、頭をよぎるので、手を抜くなんてことが、できません。

もしも、自分の設計意図が伝わらない粗末な図面しか描けず、そのせいで、適当に施工されるはめになったとしても、それに対して文句は言えないのですから、、、。


構造屋さんが「図面」にこだわりを持っても、意匠屋さんや審査機関は意に介さないでしょう。こだわって手が遅くなるよりも、速く納品する方が、喜ばれることでしょう。

ぶっちゃけ、こだわって描いても、適当に描いても、もらえるお金は同じです。

楽して、お金をもらえるなら、どんなにいいでしょう。

だけれども、「細部に神は宿る」を信じて、今日も今日とて頑張ってます、末端の構造屋なりにね!


構造屋の構造屋による、構造屋の為の交流会

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